発表直前!「竜そば」ノミネートなるか?米アカデミー賞アニメ賞を徹底分析

いよいよ2月8日、アカデミー賞のノミネート作品が発表される。日本の作品は「ドライブ・マイ・カー」が前哨戦で猛威を奮っており、今回のアカデミー賞では外国語作品賞の受賞にとどまらず、他の賞でもノミネートされるとの予想もある。

各メディアも「ドライブ・マイ・カー」の話で持ちきりだが、他の日本作品にもアカデミー賞ノミネートの可能性がある。そこでこの記事では意外にも触れられる機会が少ないアカデミー賞の長編アニメーション賞を中心に徹底考察をしていく。



日本からは6作品がエントリー

アカデミー賞長編アニメーション賞は2001年から設立された部門で、今回で21回目となる。2002年には「千と千尋の神隠し」が同賞を受賞し、宮崎駿とスタジオジブリの名を全世界に知らしめた。その後日本作品の受賞はないものの、「ハウルの動く城」「風立ちぬ」「かぐや姫の物語」「思い出のマーニー」「レッドタートル ある島の物語」「未来のミライ」と英語圏作品と肩を並べる形で多くの日本作品がノミネートされてきた。英語圏を除くと日本はフランスに次いで2番目のノミネート総数となっている。

そして今年も日本作品のノミネートが期待されるが、今年は6作品がアカデミー賞にエントリー。
アカデミー賞にエントリーした作品はご覧の通り。

『アダムス・ファミリー2』
『The Ape Star』 
『Back to the Outback』
『竜とそばかすの姫』
『Bob Spit – We Do Not Like People』 
『ボス・ベイビー ファミリー・ミッション』
『Cryptozoo』
『ミラベルと魔法だらけの家』
『Flee』
『漁港の肉子ちゃん』
『ジョゼと虎と魚たち』
『宇宙の法-エローヒム編-』
『あの夏のルカ』
『ミッチェル家とマシンの反乱』
『My Sunny Maad』
『パウ・パトロール ザ・ムービー』
『映画大好きポンポさん』
『えんとつ町のプペル』
『ラーヤと龍の王国』
『ロン 僕のポンコツ・ボット』
『SING/シング: ネクストステージ』
『The Spine of Night』
『スピリット 未知への冒険』
『神々の山嶺』
『ビーボ』
『ウィッシュ・ドラゴン』

日本からは「竜とそばかすの姫」「漁港の肉子ちゃん」「映画大好きポンポさん」「ジョゼと虎と魚たち」「えんとつ町のプペル」「宇宙の法 -エローヒム編-」がエントリー。26作品中、日本作品が6作品もエントリーする形に。果たしてこの中からどの作品がノミネートされるのか。

日本作品の筆頭「竜とそばかすの姫」

前哨戦のデータから見ていくと、アニメ界のアカデミー賞と呼ばれるアニー賞では12月末にノミネートが発表され、長編インディペンデントアニメ部門にて今年は日本から「竜とそばかすの姫」「漁港の肉子ちゃん」「映画大好きポンポさん」が見事ノミネートとなった。まずはこの3作品が大きくノミネートに駒を進めたと見ていいだろう。そして作曲賞では「えんとつ町のプペル」がノミネート。作品賞には名前がないので次点と言ったところか。

しかし最も有力なのはやはり「竜とそばかすの姫」だろう。何と言っても前作の「未来のミライ」は細田守監督初のノミネート作品となり、アニー賞では長編インディペンデントアニメ部門(英語圏を除くアニメ作品の部門)にて作品賞を日本監督としては初めて受賞した。

(C)2021 スタジオ地図

長編インディペンデントアニメ部門は2015年に設立された新しい部門ではあるが「君の名は。」や「天気の子」もノミネートされながら受賞できなかった部門でもある。また、今作「竜とそばかすの姫」も今年のアニー賞でインディペンデント長編映画部門のほか、最優秀FX(アニメーション効果)賞、長編アニメ美術賞、監督賞と長編アニメ脚本賞の5部門でノミネートされており、かなりの存在感を見せている。またその他の前哨戦では「Animation is Film Festival」で特別審査員賞を受賞し、またロサンゼルス映画批評家協会賞の長編アニメーション賞で次点となるなど追い風は十分だ。

ただし、少なからず不安要素もある。
まず1つは米Varietyのアカデミー賞予想だ。その予想はこのようになっている。

「ミラベルと魔法だらけの家」
「ミッチェル家とマシンの反乱」
「Flee」
「ラーヤと龍の王国」
「あの夏のルカ」
(第一次点)「SING シング ネクストステージ」
(第二次点)「ロン 僕のポンコツ・ボット」
(第三次点)「竜とそばかすの姫」

この予想だけを見ると「竜とそばかすの姫」は第三次点となっており受賞は難しそうに見える。

また、2つ目の不安要素はそれはアカデミー賞の前哨戦としても特に重要視されるゴールデングローブ賞での結果だ。「未来のミライ」はゴールデングローブ賞長編アニメーション賞のノミネート作品に選出された一方、今年のノミネート作品リストに「竜とそばかすの姫」のタイトルはなく、「ミラベルと魔法だらけの家」「ラーヤと龍の王国」「あの夏のルカ」「Flee」「My Sunny Maad」の5作品がノミネート。特に「My Sunny Maad」はそこまで前哨戦で名を馳せていなかったこともあり、このノミネートをきっかけにアカデミー賞ノミネート候補としての可能性をグンとあげた。

しかし、ゴールデングローブ賞はアカデミー賞に比べ日本作品をノミネートしない傾向があるのも事実だ。実際、アカデミー賞でノミネートされた日本作品「風立ちぬ」「かぐや姫の物語」「思い出のマーニー」「レッドタートル ある島の物語」はゴールデングローブ賞ではノミネートされていない。これを踏まえるとゴールデングローブ賞の結果で一喜一憂する必要はないのかもしれない。

最後に他の競合作品を考えてみると、ゴールデングローブ賞を受賞した「ミラベルと魔法だらけの家」や他にも前哨戦で結果を残した「ミッチェル家とマシンの反乱」と「Flee」はほぼノミネート確定と言っていいだろう。そうなるとまだ比較的受賞経験が少なめな「ラーヤと龍の王国」「あの夏のルカ」と枠を争うことになってくる。ただどちらもディズニー作品であり、長編アニメーション賞の受賞作が7割ディズニー作品であるアカデミー賞ではかなり苦戦を強いられそうだ。

これらを総合的に判断すると「竜とそばかすの姫」のノミネート確率は50%と言ったところか。



「ミラベル」本命?オスカー像は誰の手に?

ここまで日本作品のノミネートについて考察してきたが、作品賞についても今年はどうなるのかかなり興味深い。昨年は「ソウルフル・ワールド」の一強という形であったが、今年の前哨戦はかなり混戦状況となっている。

まず「ミラベルと魔法だらけの家」。こちらはゴールデングローブ賞ナショナル・ボード・オブ・レビューでの受賞、それだけでなく主題歌もディズニーアニメ史上初の全米ビルボードチャート1位を記録するなど今波に乗っている作品だ。アニメ賞の枠を飛び越え主題歌賞でのノミネートもありそうな勢いで、今年のアカデミー賞本命作品である。

(C)2021 Disney. All Rights Reserved. (C)2021 Disney and its related entities

次は「Flee」。デンマーク制作の作品で、内容はかなり異色のものになっている。なんとノンフィクションのドキュメンタリーをアニメに起こすと言う新しい技法を取り入れており、アフガニスタンの戦争から難民としてデンマークへ逃れてきた主人公Aminが20年話せず抱えてきた過去を告白するという作品になっている。
この技法や同性愛者や難民をテーマとした現代に合った作風も評価され、ロサンゼルス批評家協会賞では長編アニメーション賞を受賞、ニューヨーク批評家協会賞ではアニメの枠を越えノンフィクション映画賞を受賞した。アカデミー賞でも国際長編映画賞、長編ドキュメンタリー映画賞、長編アニメーション映画賞の3部門での初同時ノミネートが期待されている期待作だ。

(C)Neon

次は「ミッチェル家とマシンの反乱」。こちらはNetflixからのエントリー。ゴールデングローブ賞ではまさかのノミネートならずの逆サプライズとなったが「ミラベルと魔法だらけの家」を退いてニューヨーク映画批評家協会賞を受賞するなどこちらも受賞の可能性は大いにある作品だ。

(C)Netflix

次は「ラーヤと龍の王国」。こちらはミュージカルを強みとする「ミラベルと魔法だらけの家」は若干勢いで劣るが、ストーリーは申し分ないウォルトディズニースタジオ作品。アニー賞では最多の10部門ノミネートを記録するなどノミネート争いでは強い存在感をはなっている。

(C)2021 Disney. All Rights Reserved. (C)2021 Disney and its related entities

次は「あの夏のルカ」。こちらはディズニープラスのみの配信となったが、ピープルズ・チョイス・アワード ファミリー映画賞を受賞。観客からのウケはピカイチで、ノミネート枠が4枠の英国アカデミー賞では「ラーヤと龍の王国」を退け見事ノミネート入りとなった。

(C)2021 Disney/Pixar

ここまでが有力な5作品となるが、個人的に次点となるのは「竜とそばかすの姫」ではないかと考える。理由は先程述べたようにアニー賞での5部門ノミネート、そしてやはりロサンゼルス批評家協会賞で次点だったという点が大きい。

そして僅差で次点を争うことになるのが同じくアニー賞で5部門ノミネートとなったNetflixの「ビーボ」、ゴールデングローブ賞ノミネートで存在感が強くなった「My Sunny Maad」と言ったところだろう。

今年は大混戦が予想されるアカデミー賞だが、個人的には「ミッチェル家とマシンの反乱」の受賞に期待したい。(現実味も考慮しつつ…)

果たしてどの作品がノミネートされ、どの作品が長編アニメーションを受賞するのか。2月8日のノミネート発表と3月28日の授賞式に注目だ。

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