映画館からオリジナルアニメ映画が消える…?厳しい現状と今後の在り方について考察する

君の名は。のヒット以降、多くの配給がオリジナル映画に挑戦するも…

そもそもいつから全国規模の劇場単体アニメ作品が公開されるようになったのかというと、そのきっかけは空前絶後の大ヒットを記録した「君の名は。」にある。「君の名は。」が公開する以前まで、オリジナルの映画作品で30億円を越えるヒットを生み出していたのはスタジオジブリ作品、細田守監督作品のみだった。

©2016「君の名は。」製作委員会

そのため250.3億円の大ヒットを記録した「君の名は。」以降、新海誠に続く新たなスター監督の誕生を目指し、そのヒットを生み出したTOHO animation(東宝)のみならず東映やワーナー・ブラザーズなど多数の配給会社で200館規模の全国的にスクリーンを抑えたオリジナルアニメ作品が多く公開されるようになった。

しかしその後「ポッピンQ(東映)」「ひるね姫(ワーナー・ブラザーズ映画)」「若おかみは小学生!(GAGA)」「バースデー・ワンダーランド(ワーナー・ブラザーズ映画)」など多くの作品が良い結果を残せず。

また、「君の名は。」を生みだした東宝も同様に多くのオリジナル作品を制作してきたがあまり軌道に乗らなかった。(一方で新海誠監督は「天気の子」の大ヒットでブランド化に成功)
「君の名は。」の公開翌年「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」が全国300スクリーンで大規模公開。「魔法少女まどか☆マギカ」で知られる新房昭之監督とアニメーションスタジオのシャフトを迎えた。配給は少なくとも20億円と見込んでいたが、ストーリーや演技に批判の声が多く最終成績は15.9億円。おそらくこの程度の興行成績であれば余裕の黒字ではあるが、「君の名は。」同様の大規模公開プロジェクト第2弾としてメディアが煽っていたこともあり数字としては弱く見えてしまう部分もあった。

その後も「君と波に乗れたら」「HELLO WORLD」「空の青さを知る人よ」など多くのオリジナル作品を公開。しかし、どれも赤字に近い成績に終わった。

©2021「鹿の王」製作委員会

さらに今年公開された「鹿の王 ユナと約束の旅」もプロモーションにかなり力を入れているイメージだったが、初登場7位で10日間成績は1.6億円。こちらも最終的な3億円突破も難しそうだ。「鹿の王」で監督を手がけたのは、「もののけ姫」「千と千尋の神隠し」「君の名は。」に携わった経験を持つ安藤雅司。広告でもこの有名タイトルに触れたキャッチコピーを使用している場面が多く見られたがヒットには至らなかった。

テレビアニメの劇場版作品は豊富なラインナップに

そして今年はテレビアニメから地続きの劇場版作品のラインナップが昨年に比べてもかなり多い。
おそらく最初に触れた「鬼滅の刃」「エヴァンゲリオン」「呪術廻戦」の特大ヒットを受け、「君の名は。」でオリジナルアニメ映画が盛んになった時と同様に、今回は多くの配給会社がテレビアニメの劇場版ヒット作品を生み出そうと奮起しているのだろう。

主な2022年テレビアニメ劇場版作品
「SLAM DUNK」
「ONE PIECE FILM RED」
「ドラゴンボール超 スーパーヒーロー」
「映画オッドタクシー イン・ザ・ウッズ」
「映画『五等分の花嫁』」
「映画 ゆるキャン」
「映画 ツルネ -風舞高校弓道部-」
「劇場版 転生したらスライムだった件」
「劇場版『からかい上手の高木さん』」
「劇場版ソードアート・オンライン -プログレッシブ- 冥き夕闇のスケルツォ」
「劇場版 異世界かるてっと 〜あなざーわーるど〜」

特に上の3作品「SLAM DUNK」「ONE PIECE」「ドラゴンボール超」は「鬼滅の刃」「呪術廻戦」とジャンプ作品の特大ヒットが続いている中どれだけのヒットを残すかに期待が集まっている。特に「SLAM DUNK」の制作発表ツイートは18万いいねと驚愕のいいね数だ。

他にもSNSなどで大きく話題となった「オッドタクシー」を始め、京アニからは「ツルネ」、そして「五等分の花嫁」「転生したらスライムだった件」「ゆるキャン」など原作からテレビアニメまで多くの人気を集める作品の初映画化も10億円を越える興行成績が期待できそうだ。

そして今年は制作発表から約1年が経つ「まどか☆マギカ」の続編が公開される可能性も高い。前作は当時の深夜アニメ作品としては「ヱヴァンゲリヲン」の「破」「Q」に次ぐ歴代3位の成績を収めた作品でもあり、今年の話題をかっさらってしまう可能性をも秘めている一作だ。

このように多くの作品のヒットに期待できる一方、今年も昨年のように劇場単体作品とテレビアニメの劇場版作品の興行成績に大きな乖離が生じた場合、配給会社や制作会社は既存のテレビアニメ作品の劇場版制作にシフトし、今後劇場単体作品は徐々に減っていく、または予算が限られてしまう可能性が高い。

また、テレビアニメ劇場版作品と劇場単体オリジナル作品では固定ファンの有無という点においても大きな違いがある。もちろん監督のファンという人も一定数いるが、やはり劇場単体となるとまず作品の知名度をあげるために様々なメディアでのプロモーションが必要になってくる。その点、テレビアニメの地続きであればある程度の固定ファンがいるため広告費に費やすコストを抑えることが可能だ。また、コロナ禍で配信サービス業界は急成長しており、それに伴いファン獲得のスピードも上がり追い風となっている。



映画館から消える?オリジナル作品の新しい在り方とは

また鑑賞ハードルを低くする新しいオリジナル映画の在り方というものも少しずつ生まれている。

それはコロナ禍で目覚ましい成長を遂げた配信サービスとの共存だ。今までも劇場公開終了後に円盤発売に先駆けて1つの配信サービスで独占配信を行う、または劇場公開をせず配信サービスのオリジナルコンテンツとして配信するなどの形はあった。

©2022「バブル」製作委員会

しかし、最近ではその折衷案のようなものとして「泣きたい私は猫をかぶる」「地球外少年少女」「バブル」などは劇場の公開に先駆けてNetflixで配信開始し、後に劇場公開という新しい形も出てきている。

元々それぞれ東宝、アスミック・エース、ワーナー・ブラザーズ映画の配給で劇場のみの公開予定であったが、コロナ禍を経てNetflixでの先行配信&後日劇場公開という形に踏み切った。

これには大画面で見て欲しい制作者の意図に反すると反感を持つ人も多いかもしれないが、良い作品でも売れないという現状では赤字のリスクを回避できる最も合理的な形だ。また、後日一部劇場での上映もあるため映画館で観たい人は映画館で観ることが可能で、かつ配信サービスという利点を活かしハードルを低くすることで新たなファンの獲得にも繋がる。コロナ禍の会員激増で資金が潤沢なNetflixはテレビCMなどの広告も打つため作品の知名度アップにも期待ができる。

大ヒットを生み出すと言う上では厳しい環境かもしれないが、より多くの人がオリジナル作品に触れる機会を増やし、そしてオリジナル作品が今後も存続していくためには賢明な手段のように思える。ただ、このような公開手段が主流になった場合、細田守監督や新海誠監督などのスター監督作品を除くオリジナル作品は徐々に劇場から姿を減らしてしまうかもしれない

しかし、もし今年新たに劇場単体アニメ作品の中から1つでも多く話題作やヒット作が生まれれば、オリジナルアニメ業界は今後も存続していく可能性は大きく上がる。そこで、最後は今年ヒットが期待できる作品を紹介して今回の記事の締めとさせて頂きたい。

2022年注目の劇場単体アニメ作品情報

「地球外少年少女」
© MITSUO ISO/avex pictures・地球外少年少女製作委員会

2007年に放映され様々なアニメ賞を受賞し、Amazonレビューは星5中4.9と屈指の評価を受けたアニメ「電脳コイル」を監督した磯光雄監督が約15年ぶりにメガホンを取った作品。

2007年は「電脳コイル」で「ARのある暮らし」を予見した彼が描くのは2045年の「AIがある宇宙での暮らし」。そこで突如起こった災害に瀕した少年・登矢とその仲間たちは様々な困難に立ち向かう。こちらはNetflixで全6話が配信中。その内の後編が現在一部劇場で限定公開されている。

「ブルーサーマル」
©2022「ブルーサーマル」製作委員会

上昇気流に乗って空を飛ぶ航空機、グライダーとそのスポーツに青春をかける少年少女の群像劇を描いた人気漫画原作のアニメ化作品。

宮崎駿の初監督作品としても知られる「ルパン三世 カリオストロの城」を始め「ルパン」シリーズや「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」の美術背景など近年話題のアニメシリーズも手がけるテレコム・アニメーションフィルムが“空”に恋する少女を描く。3月4日公開予定。

「バブル」
©2022「バブル」製作委員会

監督、アニメーション制作は「進撃の巨人」で圧倒的アクションを生み出した荒木哲郎WIT STUDIO、脚本は「まどか☆マギカ」で社会現象を巻き起こした虚淵玄、そしてキャラクターデザイン原案には「バクマン。」「DEATH NOTE」を手がけた小畑健と豪華スタッフが夢のコラボ!

世界に降り注いだ泡〈バブル〉により重力が壊れた東京を舞台に、主人公ヒビキと突如現れた少女ウタの出会いがその世界の真実へと繋がっていく、全く新しいグラビティ・アクション作品だ。こちらは4月28日にNetflix配信が開始、5月13日に全国公開。

「屋根裏のラジャー」
© 2022 Ponoc

スタジオジブリ出身の西村義明が創設した新たなアニメーションスタジオ、スタジオポノックが「メアリと魔女の花」に続いて送る長編アニメーション最新作。

今作は世界で広く親しまれる小説、A.F.ハロルド著「The Imaginary」を原作に、故・高畑勲の右腕として活躍した百瀬義行がメガホンを取っている。

人間の想像が食べられてしまう世界を舞台に、主人公の“誰にも見えない少年”ラジャーが仲間たちとともに未来と運命をかけた”誰にも見えない戦い”に挑む。2022年夏公開。

「すずめの戸締り」
©2022「すずめの戸締り」製作委員会

「君の名は。」「天気の子」に続く待望の新海誠監督最新作。作品の詳しいあらすじはまだ公開されていないが、主人公の少女・鈴芽(すずめ)を中心に日本各地の廃墟を舞台として、災いの原因となる“扉”を閉じていく少女の解放と成長を描くロードムービーとのこと。

オリジナル作品としては今年1番期待が集まっていると言っても過言ではない作品。こちらは2022年秋公開予定。

最後に

劇場オリジナル作品はやはり敷居が高く、ファンの取り込みが難しい。ただ、このような作品はオリジナル映画だからこその独特な監督の世界観やメッセージ、そして新しい挑戦などが詰まっている。それらはテレビアニメの劇場版では中々ない魅力の1つだ。

とりあえずお金を払って観て!とまでは言わないが、是非広告やSNSなどで気になった作品があったらまずは予告編だけでも見てみて欲しい。そして、見たいなと思った作品には是非足を運んでみて欲しい。きっと、あなたの好きな作品に出会えるはずだ。

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