
昨年末に公開された「劇場版 呪術廻戦0」が快進撃を続けている。公開52日間で観客動員数は799万9569人、累計興行収入は110億8759万1410円に到達した。早くも公開から2ヶ月足らずで興行成績は邦画歴代10位となっている。今週末からは入場者プレゼントもあり、最終成績は120億突破確実と言われている。
2020年の「鬼滅の刃 無限列車編」前人未到の大ヒットから、昨年は「シン・エヴァンゲリオン劇場版」100億円突破、そして今年の「劇場版 呪術廻戦0」。コロナ禍以前の100億円突破邦画アニメ作品は宮崎駿監督作品、新海誠監督作品しかなかったことを鑑みてもこの3作品の立て続けのヒットは今後のアニメ業界の可能性を大きく広げていると言っても過言ではないだろう。
また、昨年2021年の興行収入ランキングTOP10を見てみると
2位『名探偵コナン 緋色の弾丸』76.5億円
3位『竜とそばかすの姫』65.4億円
4位『ARASHI Anniversary Tour 5×20 FILM Record of Memories』45.5億円
5位『東京リベンジャーズ』44.7億円
6位『るろうに剣心 最終章 The Final』43.4億円
7位『花束みたいな恋をした』38.1億円
8位『マスカレード・ナイト』37.9億円
9位『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』36.6億円
10位『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ワールド ヒーローズ ミッション』33.7億円
このようにアニメ作品がTOP3を独占しており、全映画の興行収入1618億9300万円のうち、500億円ほどはアニメ映画の興収と言われている。アニメ映画は今後も映画業界の大きな柱的存在であり続けることは間違いないだろう。
注目の劇場オリジナル作品「グッバイ、ドン・グリーズ!」
そして、今年オリジナルアニメ映画として大きな注目を集めている「グッバイ、ドン・グリーズ!」が2月18日よりKADOKAWA配給で公開となる。

東京から少し離れた田舎町を舞台に、周囲とうまくなじむことができない農家の1人息子ロウマは同じように浮いた存在のトトと2人だけのチーム「ドン・グリーズ」を結成。そして、アイルランドから田舎町にやってきたドロップもメンバーに加わり、彼らのひとの夏の冒険を描いた青春ドラマ作品となっている。
dアニメ総選挙では全3000作品中「鬼滅の刃」「ソードアート・オンライン」に次いで第3位と圧倒的人気を誇る「宇宙よりも遠い場所」を手がけた、いしづかあつこ氏が監督・脚本を務めるオリジナル劇場アニメ作品だ。キャラクターデザインや制作スタジオも「宇宙よりも遠い場所」で共にタッグを組んだ吉松孝博とMADHOUSEが担当。感動必至の「宇宙からも遠い場所」はかなりオススメのアニメ作品なので各配信サービスなどで要チェック。
また、今作の主役である男子3人組を担当するのは、「鬼滅の刃」の炭治郎役でもお馴染みの花江夏樹(ロウマ)、「僕のヒーローアカデミア」轟焦凍役や「進撃の巨人」エレン役で知られる梶裕貴(トト)、「ハイキュー!!」の主人公日向翔陽役で有名な村瀬歩(ドロップ)。他にも「呪術廻戦」で折本里香を演じた花澤香菜、ゲスト声優としては田村淳や指原莉乃など豪華キャストが勢揃いしている。
昨年の東京国際映画祭でも上映されチケットは即完売。試写会でも多くの観客が絶賛の声を寄せている今年注目のアニメ作品だ。
しかし、このような劇場オリジナルアニメは今後極端に減ってしまうかもしれないという懸念があるのも事実だ。端的に言うとその大きな理由は近年の劇場単体アニメ作品の興行不振にある。(原作のあるものも含め、テレビシリーズ系列以外のアニメ作品は劇場単体アニメ作品と呼称する。)
【※追記】
「グッバイ、ドン・グリーズ!」は残念ながらランキングTOP10圏外スタートとなりました。興収も未発表のようです。
今回はその点に着目してこれまでの遷移と現状、そして今後について考察、解説をしていきたい。
作品増も、収入減…劇場単体アニメの厳しい現状
まずは2016年の邦画アニメの5億円突破作品を見て欲しい。(赤字が劇場単体アニメ作品)
・名探偵コナン 純黒の悪夢(63.3億円)
・ONE PIECE FILM GOLD(51.8億円)
・映画ドラえもん 新・のび太の日本誕生(41.2億円)
・映画妖怪ウォッチ 空飛ぶクジラとダブル世界の大冒険だニャン!(32.6億円)
・この世界の片隅に(27.0億円)
・映画 聲の形(23.0億円)
・ポケモン・ザ・ムービーXY&Z ボルケニオンと機巧(からくり)のマギアナ(21.5億円)
・クレヨンしんちゃん 爆睡!ユメミーワールド大突撃(21.1億円)
・ルドルフとイッパイアッテナ(14.6億円)
・遊戯王 THE DARK SIDE OF DIMENSIONS(10.0億円)
次に2020-2021年の邦画アニメ5億円突破作品一覧。
・劇場版 呪術廻戦0 (110.8億円)
・シン・エヴァンゲリオン劇場版 (102.8億円)
・名探偵コナン 緋色の弾丸 (76.5億円)
・竜とそばかすの姫(66.0億円)
・映画ドラえもん のびたの新恐竜(38.4億円)
・STAND BY ME ドラえもん2(33.5億円)
・僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ワールド ヒーローズ ミッション(33.9億円)
・映画 えんとつ町のプペル(27.0億円)
・機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ(22.3億円)
・劇場版ヴァイオレット・エヴァーガーデン(21.4億円)
・劇場版 Fate/stay night Heaven’s Feel Ⅲ. spring song(20.0億円)
・銀魂 THE FINAL(19.0億円)
・映画クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園(17.7億円)
・劇場ソードアート・オンライン プログレッシブ 星なき夜のアリア(14.3億円)
・映画すみっこぐらし2 青い月夜のまほうのコ(12.6億円)
・映画クレヨンしんちゃん 激闘!ラクガキングダムとほぼ4人の勇者(11.4億円)
・劇場メイドインアビス 深き魂の黎明(6.6億円)
・映画トロピカルージュ!プリキュア 雪のプリンセスと奇跡の指輪!(5.6億円)
どちらもたくさんのアニメヒット作が生まれている点では共通しているが、2016年と比較すると近年は明らかに興行収入の上位群にある劇場単体アニメ作品数の割合はかなり少なくなってしまっている。
ただ、劇場単体アニメ作品が近年減っているというわけではなく、むしろ増加傾向にある。
「思い、思われ、ふり、ふられ」(215スクリーン)
「君は彼方」(104)
「ジョゼと虎と魚たち」(149)
「映画 えんとつ町のプペル」(307)
-2021年-
「映画大好きポンポさん」(59)
「漁港の肉子ちゃん」(249)
「100日間生きたワニ」(156)
「竜とそばかすの姫」(416)
「サイダーのように言葉が湧き上がる」(90)
「アーヤと魔女」(376)
「アイの歌声を聴かせて」(241)
「岬のマヨイガ」(152)
「神在月のこども」(162)
「フラ・フラダンス」(152)
「さよなら、ティラノ」(59)
2016年、50館以上で公開された長編劇場単体作品は6作品。それを踏まえると昨年は11本でコロナ禍で劇場が閉まっていた期間があったにも関わらずその約2倍となっている。
ただ、多くの作品が公開されている中、この作品の中から5億円を越えたのは「竜とそばかすの姫(64.0億円)」「映画 えんとつ町のプペル(27.0億円)」のみ。2億円を越えたのも「アイの歌声を聴かせて(2億円超)」のみとなっている。
アニメ映画の制作費の相場は1作につき2〜3億円と言われており作画コストの高い作品は5億円ほどにも上る。さらにTVのCMやネット広告、ポスターの掲示などの宣伝を打つ作品となるとそこから広告費も発生する。
深夜アニメの1話当たり制作費は1500〜2000万円と言われており、90分の作品であれば少なくとも広告費を除いても最低5000万円はかかっているだろう。
簡単にアニメ映画の収益の仕組みを説明すると、「アイの歌声を聴かせて」の制作費+広告費が3億円と仮定する。そうした場合2億円の興行成績は劇場と折半で2億円の内の50%である1億円が配給会社に入る。
そうなると製作費3億円で、売上は1億円なので
つまり2億円の赤字、ということになる。援護射撃として、後の配信サービスへの提供や円盤売上で多少カバーはできるが、赤字を黒字にするのでやっとと言ったところだろう。
先程あげた作品群の中でも興行成績が発表されている作品はまだ良い方で、大きくランキング圏外だったために興行成績すら発表されていない作品も多くある。そうなるとやはり赤字になってしまっている作品が多くなってしまっている可能性は高い。正直なところこのままの成績で配給会社が今後も劇場単体アニメ作品を企画し、新しく作っていくかと言われれば、少し疑問に思えてしまうのが現状だ。
そのため2022年もこのように多くの作品がヒットに恵まれない場合、劇場単体のアニメ作品が徐々に減ってしまう可能性がある。そう言った意味合いで今年はその明暗を分ける年になると私は考えている。
(2021年だけで多くの作品が失敗しているのに、2022年も劇場単体作品たくさんあるではないかと思う人も多いかもしれないが、テレビでも映画でもアニメは企画段階から2〜3年の期間を経て制作される。つまり市場の感覚とは多少のタイムラグが生じている。)
良作でも売れない…原因は鑑賞ハードルの高さにあり?
作品の中身が悪かった、演技が酷かった、不祥事があったなどの明確な理由があればヒットしなかった理由としても納得はできそうなものだが、正直近年振るわなかった作品の中にもなぜ売れないのか理解できないような魅力ある作品が多くあった。「アイの歌声を聴かせて」のミュージカル×AI×青春の融合は見事で、「映画大好きポンポさん」にはスタッフのこだわり抜かれた映画愛が詰まっており、「ジョゼと虎と魚たち」では爽やかな恋に胸が熱くなった…。

このようにたくさんの良作があるにも関わらず興行成績が振るわない原因は何なのか。
配給会社はネットやテレビの広告はもちろん、主題歌やゲスト声優に有名人を起用したり、試写会や舞台挨拶を開催したり、「〇〇のスタッフが贈る…」などのキャッチコピーを使用してファンのターゲティングをしたりと、限られた予算の中で最大限PRは行っているように見える。(ただ最近は徐々に広告を見る機会も減ってきたような気はする)
それでも売れない理由にはやはり個人的には観客のアニメ作品に対するハードルの高さ、敷居の高さにあるのではないかと思う。やはり、年に数回映画館に行くか行かないかといういわゆる映画ライト層の獲得は難しく、かと言って全国規模の劇場単体アニメ作品は年に10本弱ほどで毎週公開する実写邦画作品を鑑賞するようなヘビー層を新たに開拓するのも困難だ。
特に最近はコロナ禍で映画館に抵抗を持つ人も多いためか、メジャーな作品とマイナーな作品の興行収入の乖離がより大きくなってしまっている。
また、アニメファンもテレビアニメの劇場版にはファンとしては足を運ぶが、オリジナルアニメはSNSの感想を様子見してから見に行くという人も多い。テレビアニメの劇場版のように急いで観る必要がないという作品の性質上、配信やレンタルが始まってから見ると言う人もいる。その結果、一部の層しか初週には動員できず、仮にその作品が傑作だったとしても口コミで広がり始める頃にはもう遅く、劇場は初週で客が入らなかった作品は次の週から箱割りを減らすこととなり収入の伸びは徐々に先細りしていってしまう。

特に「アイの歌声を聴かせて」はSNSで絶賛の口コミが多く、ファンの間で拡散されるという動きも見られた。イオンシネマなどを中心に劇場側が箱数を維持する動きも見られ、4週目辺りで成績が右肩上がりになるも、やはりそこから徐々に先細りして行ってしまった。また、感想の中には「予告の時点で見る予定はなかった」「口コミで話題だから見に行った」などの声も多い。やはり固定ファンがおらず、スタッフの情報などを除けば知名度がゼロスタートのオリジナル作品に対しては関心が薄くなることは仕方ないのかもしれない。
次ページではオリジナルアニメ映画の今までの遷移とその今後について考察していく。
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