【解説】邦画は劇的に興収回復も、未だ続く洋画不振… 果たしてその原因とは?

© 2022 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved Wizarding World TM Publishing Rights © J.K. Rowling WIZARDING WORLD and all related characters and elements are trademarks of and © Warner Bros. Entertainment Inc.

「ハリー・ポッター」の魔法ワールドが送る「ファンタビ」シリーズ最新作、「ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密」がいよいよ4月8日より全国公開となる。

「ファンタスティック・ビースト」シリーズは「ハリー・ポッター」シリーズ1作目の70年前が舞台。主人公である魔法動物学者のニュート・スキャマンダーが魔法動物研究の最中、悪の魔法使い達の陰謀に巻き込まれていく様を描いた人気シリーズ作品だ。

そして今作はその「ファンタビ」シリーズ待望の3作目。主人公のニュートは前作で初登場したダンブルドアや魔法使いの仲間たちと共にデコボコチームを結成し、黒い魔法使いグリンデルバルドに立ち向かう…という最終章に大きく差し掛かる物語となっている。

映画『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』本予告 2022年4月8日(金)公開

USJのハリポタエリア(ウィザーディングワールド・オブ・ハリー・ポッター)や2023年前半オープン予定のスタジオツアー東京 メイキングオブハリー・ポッターと遊園地からテーマパークまで本シリーズ終了後も人気が全く衰えない「ハリー・ポッター」シリーズ。

そのスピンオフである「ファンタビ」も人気は絶大で、1作目「ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅」は73.4億円、2作目の「ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生」は65.7億円と大ヒットを記録している。そしてこの勢いのまま今作も大ヒットが期待される。

しかし、今作のヒットにおいて気がかりな点が1つある。それはコロナ禍以降の洋画作品における興収不振だ。なんとコロナが蔓延し始めた2020年3月以降、興収が30億円を越えたのは「ワイルド・スピード ジェットブレイク」と「スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム」の2作品のみ
一方邦画は15作品以上が30億円越えのヒットを記録していることからも、全映画共通ではなく極端に洋画作品の興収が不振になっていることがわかると思う。

今回この記事では、その洋画不振の原因、そしてその今後について考察していく。

スポンサーリンク

邦画作品は勢いを取り戻すも、洋画は…

一昨日、昨年とコロナ禍により大きな打撃を受けた映画館。緊急事態宣言で多くの劇場が休館に追い込まれ苦しい時期が続いた。映画館に通うことを生業とする自分にとってもこの時期はかなり歯がゆい思いをした。しかし、その一方で映画業界にとって明るいニュースもあった。コロナ禍を通して多くのファンを集めた「鬼滅の刃 無限列車編」が化け物級のヒットを記録し、歴代興収1位の記録を塗り替えたのだ。

その勢いに乗じて翌年2021年は「シン・エヴァンゲリオン劇場版」「劇場版 呪術廻戦0」「名探偵コナン 緋色の弾丸」「竜とそばかすの姫」など特大ヒットを記録するアニメ作品が次々に誕生した

その影響もあり2021年の邦画作品はコロナ禍でありながら年間興収は2000年以降歴代3位となるなど凄まじいスピードでの回復を見せた。

年間興収の推移。青線が邦画、オレンジ線が洋画。

一方洋画作品は苦しい状況が続いている。2021年は前年2020年からさらに数字を落とし、2000年以降ワーストの記録を更新。近年の洋画全盛期であった2019年と比べると年間興収比28%とかなり悲惨な数字となった。「ただ単に作品数が激減しているからでは?」と考える人も多いと思うが、実際そういった事情ではなさそうだ。(2021年の作品数は469本で2019年の589本と比べるとそこまで極端に減っているわけではないように見える。)

しかし、ならなぜここまで洋画は興収不振が続いているのだろうか。まず大きな要因として挙げられるのは配信サービスの普及ではあるが、その条件は大方邦画作品も変わらないはず。

そのため、ここでは勢いを取り戻した邦画作品に対して、なぜ洋画作品が不振なのかにフォーカスしつつ個人的に思いあたるポイントを3つ挙げながらこの問題に向き合っていきたい。



①シニア層の外出控え

まず1つは、コロナ禍によってシニア層の外出機会が大きく減少したことだ。

2018年、ソニー生命保険株式会社が全国のシニア(50〜79歳)1000人を対象に「現在の楽しみ」について聞いたアンケートによると「映画」は全体の26%で4位。「映画鑑賞」はシニア層にとっても人気の高い趣味となっていることがわかる。

しかし、コロナウイルス感染の警戒から外出を控えるシニア層が増加。それに伴い映画館に足を運ぶ人数も少なくなったと予想できる。特にシニア層は若い世代に比べ重症化リスクも高いことから他の年齢層より外出機会が減ることは必然的だ。

コチラの記事から引用

こちらのアンケートではシニア層のコロナ禍以降の外出機会は7割減とのデータが出ている。また、目的別で見ると「観劇・映画」の項目はコロナ以前に比べ86.7%マイナスとなっており、シニア層の中でも特に“映画を鑑賞する層”の外出機会が大きく減っていることがわかる。


映画館にシニア層が減ってるのはわかったけど邦画が売れてるのは事実だし、洋画だけ売れない理由にはなってないんじゃない?

どんな邦画作品が売れているかに着目すると糸口が見えるかも…。


確かにシニア層に洋画だけを見る人が多いというデータはないため、シニア層の客足減少だけが洋画不振の根拠になっているとは現時点で言い難いのも事実だ。

しかし、2021年の邦画ヒット作品を見てみるとヒット作品にはある共通点がことがわかる。

一度2021年度の邦画上位10作品を見てみよう。

1『シン・エヴァンゲリオン劇場版』102.8億円
2位『名探偵コナン 緋色の弾丸』76.5億円
3位『竜とそばかすの姫』65.4億円
4位ARASHI Anniversary Tour 5×20 FILM Record of Memories45.5億円
5位『東京リベンジャーズ』44.7億円
6位『るろうに剣心 最終章 The Final』43.4億円
7位「新解釈・三国志」40.3億円
8位花束みたいな恋をした38.1億円
8位マスカレード・ナイト38.1億円
10位『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ワールド ヒーローズ ミッション』33.7億円

これを見てわかるのは上位10作品のうち6作品がアニメ映画、またはアニメ原作の実写映画であるという点。邦画作品は中高生に人気なアニメ系作品を中心にヒットしやすい傾向となっているのだ。

一方で山田洋次監督の「キネマの神様」や「科捜研の女 劇場版」などシニア層を狙った邦画作品はヒットには至っていない。

邦画作品もアニメなど中高生を中心に動員数を増やしたことで興収は回復傾向となったが、シニア層向けの作品はヒットしづらい状況が続いている。つまり、そのような作品群と同様に回復傾向が見られなかった洋画作品も同じくやはりシニア層の減少が大きな打撃になっていることがわかる。



②ディズニー作品の存在感

コロナ以前のデータとしてメディアで比較されがちな2019年度の興行収入だが、この年はディズニーの存在感が凄まじいものだった。

2019年洋画興行収入ランキング
1位「アナと雪の女王2」133.7億円
2位「アラジン」121.6億円
3位「トイ・ストーリー4」100.9億円
4位「ライオン・キング」66.7億円
5位「ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生」65.3億円
6位「アベンジャーズ エンドゲーム」61.3億円
7位「ジョーカー」50.6億円
8位「シュガー・ラッシュ オンライン」38.6億円
9位「スパイダーマン ファー・フロム・ホーム」30.6億円
9位「ワイルド・スピード スーパーコンボ」30.6億円
(※赤字がディズニー作品)


なんと上位10作品のうち6作品がディズニー配給作品となっており、そのうち3作品は100億円を越える特大ヒットを記録した。

このように洋画作品の中核を担う存在であったディズニーだったが、コロナ禍以降はディズニーの配信サービスであるディズニープラスに特化する方向にシフト。ディズニープラス側に優位な条件を映画館に提示し、映画館側も抗議の声をあげるなど、少なくとも良い関係とは言えない状況が続いている。(詳しくはコチラの記事で解説しています。)

そのため、映画館でのヒット作品を生み出すことにやや苦戦しており、コロナ禍以降10億円を越えた作品は「エターナルズ」のみとなっている。
また、劇場公開後から2ヶ月以内にディズニープラスで配信をすると言うケースも多く、映画館に行く必要性も薄れていることから客足はさらに減少傾向にある。

会員数は今や国内180万人とも言われるディズニープラス。

このように映画館でのディズニー作品の存在感は薄くなっており、ポッカリと穴が開いたような状態になっていることも事実。このことも洋画不振に大きく結びついている面はあるだろう。

また、ディズニーアニメに関しては単独作品が多く、シリーズ作品が少ないのもヒットに繋がりづらい要因に。そういった面では7月1日公開予定の「バズライトイヤー」は「トイ・ストーリー」に関連のある作品なのでヒットに期待したい。

③全米ヒット作品との乖離

先程にも触れたように2021年の洋画作品の年間興収は2019年興収比28%とかなり厳しい数字となった。一方で、日本の洋画シェアのほとんどを占める全米はと言うと2019年興収比40%にまで回復してきている。この12%の差は一体何なのか。まずは、2021年以降の洋画興収ランキングを見比べてみよう。

順位日本全米
1位スパイダーマンNWHスパイダーマンNWH
2位ワイルドスピードJBザ・バットマン
3位007NTTDシャンチー
4位ヴェノム2ヴェノム2
5位ゴジラvsコングブラックウィドウ
6位SING2ワイルドスピードJB
7位マトリックス4エターナルズ
8位モンスターハンター007NTTD
9位エターナルズSING2
10位ボスベイビー2クワイエットプレイス2

これを見るとかなり全米と日本でヒット作品にかなり違いがあることがわかる。全米ではアメコミ作品が上位6位を占めている一方、日本で上位10作品の入っているのはわずか3作品のみ。

アメコミ映画に若干依存している全米市場に対し、いまいちアメコミ映画文化が浸透していない日本市場はヒット作品に恵まれないのも仕方ないことなのかもしれない。

一方で「ワイルドスピード」「007」「マトリックス」など人気シリーズの続編は日本でヒットしやすい傾向にある。この傾向は今年の作品にも良い影響をもたらしそうだ。



2022年、洋画は勢いを取り戻せるか…!?

ここまで洋画不振の原因となるポイントを解説してきたが、ここで一度そのポイントをまとめてみる。

まとめ①シニア層の客足減少
・邦画は中高生集客に成功し回復傾向
・しかし、洋画は苦戦…

②ディズニー作品の存在感
・劇場&配信の同時路線に苦戦
・映画館の存在感は薄くなり、ぽっかり穴が開く形に

③全米ヒット作と日本ヒット作の乖離
・アメコミ作品がいまいちヒットしない日本
・人気シリーズ作品はヒット傾向にあり

他にも来日イベントなどが無くなったことによるメディア露出の減少なども挙げられるが、ひとまずはこの3つのポイントを踏まえつつ、2022年今後の洋画作品ヒットに向けて具体的にどうすれば良いのかを考えてみる。

①シニア層の外出控え

まず①のシニア層の減少。

シニア層の客足を戻すのは、コロナウイルスが完全に収束するまでかなり難航を極めるだろう。
実際未だ先は見えず、3月末頃に蔓延防止等重点措置は解除されたものの、感染者数が再び増え第7波が来るとも言われている。

こういった状況の中、やはり収束が見込めるまでは中高生や社会人など若年層をターゲットにしたPRにシフトする他ないように思える。例えば若者のTV離れを意識して主要都市の駅広告やSNSでのPRを積極的に行う他、また動画配信が普及する中映画館ならではの映画体験を強くアピールすることも重要だ。

明らかに若者層への呼び込みが難しい作品であれば、配信サービスへの売り込みなどで赤字リスクを減らすという選択肢もある。

②ディズニー作品の減少

次に②のディズニー作品の減少。

ここはむしろ他の洋画作品は競合作品が少ないことをプラスに考え、初期投資として宣伝数を増やす等、その空いたポジションを邦画に取られないようPRを強化するのもアリかもしれない。例えばシリーズ作品であればライト層獲得のために地上波放送を行ったり、配信サービス内でも積極的に宣伝をしたりなど、もう一歩作品を知ってもらう努力をすればより多くの人に作品を知ってもらう機会を増やせる。(正直某配給は入場特典に割くリソースがあるなら広告に回しても良いとは思う)

③全米ヒット作と日本ヒット作の乖離

最後に③、全米ヒット作と日本ヒット作の乖離だ。

アメコミヒーロー作品が他国に比べヒットしづらい理由は、既に日本では「仮面ライダー」「ウルトラマン」などのいわゆる特撮系ヒーローの存在がありアメコミのヒーロー像を受け入れがたい文化が形成されているから、日本は自国のコンテンツで既に飽和状態にあるからなど様々な意見はあるが、正直つかみどころがないのも事実だ。

ただ、個人的にアメコミ作品はもう少し公開前に関連作品の地上波放送を行ってもいいような気はする。
最近で言えば「スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム」公開時にもそれに合わせた作品の地上波放送がなかったのはかなり意外だった。やはり、ライト層獲得のために地上波放送はかなり有効性のあるものだと思う。
また、本国アメリカとは多少の文化の違いがあるからこそ、本国とはまた違ったアプローチで作品をPRすることもマーケティングの形としては面白みがあるかもしれない。

一方で、人気シリーズ作品はコロナ禍以降もヒットしやすい傾向に習い、配給はその作品群に重点を置いて劇場での箱数確保や過去作の地上波放送を念入りに行う必要があるだろう。
実際十分な箱数を確保し、地上波放送も行った「SING シング ネクストステージ」は洋画不振を感じさせない大ヒットを記録中だ。

そして、今年は他にも昨年に比べ日本で大きく人気を誇るシリーズ作品も多く公開されるので、最後に今年の期待作を紹介してこの記事の終わりとしたいと思う。

次ページ:「ミニオンズ」「ジュラシックワールド」など!2022年の期待作を紹介!

コメント

タイトルとURLをコピーしました